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たとえそこに、愛がなくとも
第1章 悪戯な再会

そのドアから入ってきたのは
「おはよう」
背の高い、男の人。低く重たい声で、手足が長くて、サラサラの黒髪にくっきり二重のシメントリーの綺麗な目。整った薄い唇に高い鼻。
私の心臓はドキドキと騒ぎ出した。
でもそのドキドキは、いい意味ではなくて、驚きとか、恐怖とか、焦りとか、そういったもので。
だって私は、この人をよく知っている。
何度もこの人を見たことがある。
彼も私に気づいたのか、目があった途端ハッとする。
けれど、すぐに無表情に戻り、ドアを閉めて荷物を置く。
気づいてるの?そうじゃないの?どっちなの…?
「今日から西岡駅前店の店長を務めることになった、音峰類です。よろしく」
私の脳内の疑問には答えず、彼は淡々と自己紹介をする。
この声、知ってる。その表情、知ってる。
ついこの前まで私は彼に頻繁に会っていた。
何度も唇を重ね、何度も身体を重ねていた。
そう、この男は
私の元常連客だ。

