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たとえそこに、愛がなくとも
第1章 悪戯な再会



軽く自己紹介をした後は、特に口を開くこともなく、彼は上着を脱いで更衣室へと入った。

え、気づいてないの?本当に私があの店の”ななみ”だってわかってない…?

確かにあの頃から髪色も髪型も変えていて、今着ているのはあのキラキラしたドレスではなく白シャツにエプロンで。

でも彼は、週に1回、少なくても月に2回は必ず私を指名していたような常連客だ。

何度も顔を合わせている。嫌でも私の顔は覚えたはずだ。

それでも気づかないなんてこと、あるのかな?

けれど、事務所にいるのはまだ私と彼のふたり。気づいていたら確実に私に”ななみ”じゃないかと尋ねるはずだ。

どうやら、今のところ気づいていないらしい。どうかこのまま気づかないでいてほしい。

だって、この店の人にしゃべってしまうかもしれない。そしたら私はこの店にはいられない。

せっかく手に入れた真面目な職なのに。せっかく周りの人たちとも馴染めてきたのに。

やだやだ、絶対辞めたくない。

どうかこのまま気づかれませんように…。




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