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たとえそこに、愛がなくとも
第1章 悪戯な再会

それからも、結果彼にビクビクしながら仕事を続け、午前10時、30分の休憩時間をもらう。
「休憩いただきます」
「ごゆっくりどうぞ」
事務所に入ると、午後から大学の授業が入っている中原さんは帰る準備をしていた。
「お疲れ様」
「お疲れ様です」
私は社割で購入したアメリカンコーヒーを飲みながら、パイプ椅子の背もたれに体重を預ける。
疲れた。疲労っていうか、心労……。
「桃さん」
「ん?」
ぐったりとしながら休憩していると、私のことを下の名前で呼んでくれるようになった中原さんが、キラキラと目を輝かせながら私に声をかけた。
「音峰店長、ちょーイケメンじゃないですか?!」
「は、はぁ…」
何かと思えば、店長の話か…。お願いだからやめて。私今あの人のせいで疲れてるんだから。
「前の店長も優しくて好きでしたけど、音峰店長かっこよすぎてやばいです!!私もうずっとドキドキしながら仕事してて」
私を置いてけぼりにして、彼女はひとりできゃっきゃと盛り上がる。
まあ確かに、彼はかっこいい。彼に初めて会った日、なぜこんなハイレベルのイケメンが風俗店に来るのかと頭を悩ませたものだ。
「なんか今から講義とかもったいないなー。シフト延長とかしてもらえないですかね?」
「コラ、ちゃんと大学行きなさい」
「はーい」
彼女は「へへっ」と笑いながら教科書が入っているだろうリュックを背負う。
「お先に失礼しまーす」
「お疲れさん」
事務所にひとり取り残され、「はぁ」と小さく息をつく。
できるもんなら、私が大学に行って中原さんに仕事をしてもらいたいんだけどな。利害関係は一致してるんだし。
もうやだ、ほんとやだ……。
私は再び「はぁー」と、さっきより盛大なため息をついてテーブルに顔をうつ伏せた。

