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たとえそこに、愛がなくとも
第1章 悪戯な再会

「えー、店長向こう行っちゃうんですか?」
「こっちで一緒に飲みましょうよ〜」
後輩ふたりが懸命に彼を引きとめようとする。ナイスナイス、その調子よ。
けれど、彼女たちの努力と私の応援は虚しく、彼はグラスを持って立ち上がる。
「この機会に全員の顔と名前を完璧に覚えたいんだ」
なんだ、そういうことか。焦って損した、私の暴れた心臓に謝ってほしい。
「じゃあ私たちの名前ちゃんと覚えました?」
「中原舞、本田瑞稀」
「正解、完璧です!」
「また戻って来てくださいね?」
名残惜しそうに見送られながら店長は自分のグラスを持ってこちらへとやって来た。私は酔いが回りながらもなんとか身構える。
「来宮、お疲れ」
「お疲れ様です」
グラスをカチンと合わせお互い焼酎を口にする。
「来宮は酒が好きなのか?」
「まあ、好きですけど」
「そうか、俺も割と好きな方だ。特に焼酎はな」
「そうなんですか、私も焼酎好きですよ」
「まだ20代半ばだろう?
好きになるにはまだ早いんじゃないのか?
オヤジ臭いぞ」
「な、なんですかそれ、失礼です」
「ハハッ、眉間にシワが寄ってる」
彼は私の眉間に手を伸ばし、指先でシワを広げるようになぞった。
急に彼の指先が触れるからついドキドキしてしまう。

