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スーパーヒーロー
第2章 アンリ
声は、僕の後ろの席から聞こえてきた。
透き通っていてとても綺麗な声だ。
まるでさっきまで夢の中で聞いていたような懐かしさと、心地よさを覚える。
「ああ、すまないなケイント君」
ケイント・・・?
「ごほんっ・・・たいへん地味な愚か者に授業の時間を大幅に削られてしまったが・・・みんなに報告だ。たぶんもう校内では有名らしいから知っているやつも多いだろうが。今日から本校に転校生だ。ケイント君、前へ・・・」
そう先生が言うと、後ろから誰かが席を立った音がした。
「転校生」という言葉から、僕は期待の色を隠せなかった。
足音が近づいてくるにつれて、心臓の鼓動が速くなり、音も大きくなっていく。
「レイガン、このスケッチブックは没収だ。放課後取りに来るように」
そんなことどうだっていい。今はもうそれどころじゃないんだから。
どうしよう、不安だ。なにが不安なんだ?
心臓がもうもたないくらいドクドクいってる。
「・・・」
限りなく無表情で黒板の前に出てきたのは間違いなくアンリだ。
「アンリ・ケイントです。よろしく」
彼が前に出てきた瞬間から、女の子たちがざわつきだした。
少し伸びた黒髪に、耳にはピアス。
着ているのはどこかのバンドTシャツだろうか・・・いかにも音楽が好きそうだ。
やばい・・・グリーンベースまんまそっくりだ。
いやむしろグリーンベースにしか見えない。
「やつも大変そうだなー」
「?」
後ろの席のヘンリーが背中をつついてきた。
彼の言ったことは聞かないでも分かる。
転校初日からこんなだもんな、あんな軍隊みたいな数の女の子に囲まれて、
きっと疲れているだろう。
大半の女子はアンリに夢中になっているわけだが・・・
男子はそう黙っちゃいないだろうな。
僕は相変わらず変だ。
心臓はまだドキドキしているし、変な夢は見るし。
今日は早く帰って休もう。
さっき取り上げられたスケッチブックを取り返しに行かなくちゃ。
放課後。
クラブに入っている生徒くらいしかいない校内は静まり返っている。
窓からは夕日の光が覗いている。
僕は急いで、カーチス先生のいるところへ向かった。
僕あの先生は苦手だからあまり嫌なんだけどね。
スケッチブックのためだ。