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あいの向こう側
第20章 影
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『葉~、
来たわよぉー』
アパートのインターホンをガンガン鳴らして俺を叩き起こした母は、
扉を開くなりズカズカ入ってきた。



『…………母さん、
俺さっき寝たとこ……………』


『あらー、
やっぱり狭いわねぇ!
汚いし!
葉あんた片付けしなさいよ~。
ほれ、叔父さんから就職祝い』
一方的に喋ると、
包みを差し出した。



『え、2回目だしいいのに』



『だからネクタイなんでしょ。
有難く貰っておきなさいな、
お年玉あれだけくれたんだよ、
あんた返さなきゃならないのに』



なら要らねーよ、と言おうとしたが母に言うのは無駄である。


地獄の夏から1年半後。



冬の初め、
俺は再就職をした。


小さなデザイン事務所だ。

専門はデザインの学校だったから、
採用試験を受けたら受かった。





同時にバイトで貯めた金で小さなアパートを借りた。

また、田舎を出たのだ。

母が来訪したのは引っ越し後初めて。


『漬け物とー、
梅干しとー、
買うと高いからね、ほら野菜』


母は断りなく散らばった衣類を片付け始める。

『ちょっと、
触んなよ!』


『お母さんがしなきゃあんたしないでしょ?
あ。
それともなぁに?
彼女くらいできたの?』


げんなりし、
トイレに入る。



____母は半日居て「友達と遊んでから帰るわ~」と出て行った。





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