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あいの向こう側
第22章 悲しい夜
僕は窓際に車いすを移動させた。


夜7時。

院内は夕飯も終わり、面会者や家族も疎ら。




秋が深まり薄手のパジャマでは寒く、
嫁に羽織りカーディガンを持ってきて貰った。



46歳の誕生日を___本人は忘れていたが、娘と息子がプレゼントをくれた___先月迎えた。

商社に勤務して18年。




休職扱いとなっているが、
早いうちに退職する。


『実感ないや』
僕は自覚がないまま癌細胞に全身を犯されている。


分厚い窓を左手で撫でながら暗くなった外を眺めた。




嫁は気丈な性格だ。

涙ひとつ見せない。


仕事仕事でろくに子供の相手もせず、
全国を飛び回ってきた僕には申し分ない嫁だ。




車いすから降りた。


〔念のため〕であって、あまり必要はない。



もうすぐかなと思う。

チラッと掛け時計を見ると、
7時半を指している。





『あ、やはりだな』
周囲に人がいないからつい言葉が出た。



______ホスピタルの向かいにある、
小さな喫茶店。

流行り風のカフェではなく、
昔ながらのいかにもな喫茶店だ。



店舗の裏手に灯りが点(とも)った。













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