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あいの向こう側
第22章 悲しい夜
看護師が検温に来る。

朝食を取り、
スタッフが回収してゆく。


4人部屋だ。

各自読書やらオセロやらを始める。


____いつもの朝の風景。




僕は隣のベッドのワキタという爺さんと世間話をしたあと、
デイルームに向かう。


読書でもしようと思った。


入院生活ってやつがこんなに退屈で苦しいものだと知らなかった。

病気ひとつしなかった僕は、
ポッカリ時間が空くと「いつ死ぬのか?」ばかり考えてしまう。





____自覚症状がなくても、
〔それ〕はひたひたと着実に迫っているのだ。





来週から抗がん剤治療を始める。

手遅れだが、
しないよりは進行を食い止めることができる。







____デイルームと呼ばれる広場は、
談話室だ。

雑誌、新聞、文庫本が沢山置いてある。


忙しくてあんなに熱中していた読書さえ忘れてしまっていた。


僕は片っ端から手にして読んでゆく。



『……………わよ』『えっ、そうなの?』
看護師が立ち話をしているのが耳に届いた。


しばらくすると、
病棟から号泣する女性の声が聞こえてきた。







_____誰かまた亡くなったのだ。


僕は女性の絶叫に近い泣き声を聞いて、
イライラし文庫本を数冊抱えて場所を移動した。







毎日、誰かの肉体が消える。
昨日笑っていたのに忽然と。老いも若きも男女もなく。
まるで神隠しのようだ。


___それが病魔というもの。



僕は自覚はないくせに恐怖心だけはあったのだ。


女性の泣き声は次第に小さくなっていった。



僕は、
文庫本を開いたが全く文字が入ってこなくて目だけを動かした。
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