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あいの向こう側
第23章 か・わ・い・そ・う
『ただいまー』

夜11時。


セーラー服に着替え直して自宅に入る。


バタバタと台所に行き、
手を洗い冷凍食品をチンして食べた。
デートクラブで食事もできるけど、
小汚いおっさんとじゃ食べた気がしなくていつもお茶だけにしている。



手早く粥を作り、
缶詰の煮魚を皿に出して温める。


『ママ-、
おまたせー』
1階奥にあるママの部屋に向かう。



ウトウトしてたらしいママは『……………あ、
おかえり実雪』と微笑んだ。

ベッドからゆっくりと起き上がる。

動くのに掛かる時間が長くなってきた。




麻痺があるのは左腕と、
右足。


黒い艶々した髪を束ねてやり、
スプーンを持たせるとママは少しずつ食べる。



ほっとする。

 
『実雪、あんた、
こんな遅くまでかかるの?厨房の洗い場って………』

食べ終わるとママが話す。



『うん。
片付け、時間かかるんだよ?
梨乃【りの】だってバイト10時半までだよ』
実雪は友達の名前を出して無表情に答える。

ママは何か言いたげな顔をしたけれど、
『そう………
無理しないでね?支援金だってあるんだから』
と柔らかい笑みをした。







(仕方ない。

仕方ないんだよ、ママ)


実雪は進学希望であることを未だママに話してない。


プレッシャーに感じるだろうから、
言わずに試験を受けるつもりだ。


成績は中の上をキープしているから、
医療専門学校なら楽勝だろう。




『あ。
昼間、郵便やさんが来てたわ』
ママが思い出したように言う。

なんせ、
客が着てもママが玄関まで行くのに10分くらいかかってしまう。



だから出られないのだ。



『あ!
ポスト溜まってたね、そーいや』
実雪は玄関に駆けていく。
ポストには何通かの封筒が詰め込んであった。
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