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あいの向こう側
第29章 旅立ち
わたしはセーラー衿を再度結び直した。
奥の和室から祖母の声がする。
赤子のような泣き声。
わたしは微笑み、
頷く。
玄関の扉が開いた。冷たい風とともに、誰かが飛び込んできた。
『奈津(なつ)!
お前、転校するって本当かよ!!』
飛び込んできたのは健瑠(たける)だ。
『あれ、バレちゃったぁ?』
わたしはおどけて舌を出した。
『お前っ………何で言わないんだよぉ!』
衿を掴まれて、
ビクリとした。
健瑠の真剣な瞳が目の前にある。
だからわたしも真剣な表情になった。
『決まったのが一昨日なの。
言う前にバタバタしてたから』
『奈っちーーー!
いる?いた!何で教えてくんないのよ!』
開いたままの玄関扉にもう一人滑り込んできたのは、
春陽(はるひ)だ。
涙を流している。
わたしは不意に目を逸らして、
『急に決まったの。
ごめんね………………』
と呟いた。
『ウソでしょ………本当なの?
行かないでよ~、あたしどうしたらいいの~』
春陽が声を挙げて泣きだした。
健瑠も歯を食いしばる。
『どこに行くんだよ?』
『S市』
『ほ、北海道じゃん!!
何十キロ離れてんだよ………………』
確かにここは関東の外れだ。
しかしわたしには行く場所は何処でも関係がない。
『ひっく………取り消せないんだよね?
ひっ…………ふぐ…………』
春陽はうちが母子家庭なのを知ってか、
〔なぜ引っ越すのか〕は敢えて訊かないようだ。
胸がチクリと痛む。
春陽のそういうとこ、大好きだったから。
『奈津、
行きますよ』
着物を着た婦人が入ってきて、
二人は押し黙った。
『はぁい。
おばさま』
わたしは荷を持って立ち上がる。
ボストンバッグ一つだ。
『じゃあ、健瑠。春陽、元気でね。
一緒に高校進学できなくて辛いけど。
ありがとうね』
二人は隅で呆然としていた。
わたしは外に出て車に乗り込む。
奥の和室から祖母の声がする。
赤子のような泣き声。
わたしは微笑み、
頷く。
玄関の扉が開いた。冷たい風とともに、誰かが飛び込んできた。
『奈津(なつ)!
お前、転校するって本当かよ!!』
飛び込んできたのは健瑠(たける)だ。
『あれ、バレちゃったぁ?』
わたしはおどけて舌を出した。
『お前っ………何で言わないんだよぉ!』
衿を掴まれて、
ビクリとした。
健瑠の真剣な瞳が目の前にある。
だからわたしも真剣な表情になった。
『決まったのが一昨日なの。
言う前にバタバタしてたから』
『奈っちーーー!
いる?いた!何で教えてくんないのよ!』
開いたままの玄関扉にもう一人滑り込んできたのは、
春陽(はるひ)だ。
涙を流している。
わたしは不意に目を逸らして、
『急に決まったの。
ごめんね………………』
と呟いた。
『ウソでしょ………本当なの?
行かないでよ~、あたしどうしたらいいの~』
春陽が声を挙げて泣きだした。
健瑠も歯を食いしばる。
『どこに行くんだよ?』
『S市』
『ほ、北海道じゃん!!
何十キロ離れてんだよ………………』
確かにここは関東の外れだ。
しかしわたしには行く場所は何処でも関係がない。
『ひっく………取り消せないんだよね?
ひっ…………ふぐ…………』
春陽はうちが母子家庭なのを知ってか、
〔なぜ引っ越すのか〕は敢えて訊かないようだ。
胸がチクリと痛む。
春陽のそういうとこ、大好きだったから。
『奈津、
行きますよ』
着物を着た婦人が入ってきて、
二人は押し黙った。
『はぁい。
おばさま』
わたしは荷を持って立ち上がる。
ボストンバッグ一つだ。
『じゃあ、健瑠。春陽、元気でね。
一緒に高校進学できなくて辛いけど。
ありがとうね』
二人は隅で呆然としていた。
わたしは外に出て車に乗り込む。