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intimidation love
第3章 吉野と一葉
「…あ」

屋上から見渡す校庭の景色に、私は一瞬にして目を奪われた。

「桜…」

無意識に呟いていた。
屋上から見下ろす桜の木々は、きっと校舎内のどの場所よりも映えるだろう。
時期が既に過ぎてしまった事が、残念で仕方がない。

「好きなの?桜」

隣に並んだ先輩に尋ねられ、素直に頷いた。

「…好きです」

瞼を閉じ、ここから眺める満開の桜を想像する。
浮かんで来る鮮やかな情景に、幸福感が私の中を満たして行った。
きっと、飽きる事なくいつまでも見ていられる自信がある。
もし来年も鍵が壊れたままだったら、ここに来ようか。
許可されていない場所に立ち入った事への後ろめたさを既に忘れ掛けていた自分は、つくづく現金な人間だと思う。

「ねえ」

間近に聞こえる先輩の声に、はっとして目を見開く。
不思議そうに覗き込む先輩の顔が目の前に映り込み、思わず退いた。

「そんな驚かなくても」

「…近過ぎです」

「ていうか、今俺の存在忘れてたでしょ」

「………」

「俺が居る事も忘れるくらい、桜が好きなの?」

くすくすと、目を細めて先輩が笑う。

「何それ。かわいー」

心にもない事を言わないで欲しい。
私は目尻を吊り上げ、先輩を睨んだ。

「からかわないで下さい…何のつもりですか?いきなり教室に来るなんて」

「いや、俺こないだ君の呼び出しすっぽかしちゃったでしょ?そのお詫びとして顔出したんだけど」

「…そういうの、逆に迷惑です。先輩と知り合いだなんて、皆に知られたくないのに」

「いかがわしい関係だってばれたら困るから?」

にやにやと、いやらしい笑みを浮かべる先輩から目を逸らす。

「…やめて下さい。困るんです。それに、あんな勝手な行動取っていいと思ってるんですか?これで、もし私があの画像を…」

「君はそんな事しないでしょ」

「…何でですか」

「やるなら、俺がすっぽかした時点でとっくにやってるんじゃないの。でも、実際は何もしてないんでしょ?」

「………」

「君にそこまでする度胸はないんじゃないの?あんな大胆な事する癖に、詰めが甘いんだよね」

自分の弱い部分を見抜かれ、返す言葉もない。
先輩は、この状況をただ楽しんでいるだけに過ぎないのだ。
暇潰し程度にしか思っていないのだろう。
その悔しさと惨めさに、きつく唇を噛む。
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