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intimidation love
第3章 吉野と一葉
「まさか、好きな男ってあいつの事じゃないよな?」

違うと否定したところで、私の事を熟知しているハル君にはすぐに嘘だと見抜かれてしまうだろう。
躊躇いながら頷くと、自分の額に手を当てたハル君が盛大な溜息を漏らした。

「…俺を『練習台』にしたのは、あいつの為か?」

返す言葉もない。

「相手が誰とは聞かなかった俺も確かに悪かったかもしれないけどな…でもまさか、あいつだとは思ってなかった」

私も、ハル君には言うつもりなかった。

「よりによって何であいつなんだ。誠実さの欠片もない男だぞ」

酷い言われ様だ。
その通りではあるけれど、教師にまでそんな風に思われている先輩が少しだけ不憫に思えて来る。

「俺が馬鹿だった。おまえがあんな痴女みたいな真似をしたがるなんて、どう考えても相手が普通じゃないって事なのに」

「…痴女?」

「痴女としか言い様がないだろうが。何で俺も、練習台になんてなっちまったんだか」

「だって…他に頼める人なんて居なかったし」

「居てたまるか!そんな事他に頼もうとするな!」

ハル君は目を吊り上げて私に怒鳴った後、再び大袈裟な溜息をついた。

「…ごめん、ハル君」

やっぱり、ハル君に練習台なんて頼むべきではなかったのだ。
無理にお願いしたのは私だし、ハル君が嫌がっていた事も知っている。
だけど何だかんだ言って優しいハル君が、私からのお願いを断りきれない事も知っていた。

「…俺に謝るくらいならあいつの事は諦めろ。遊ばれて傷付くのはおまえなんだぞ」

「わかってるよ。付き合えるとか、好きになって貰えるとか…そんな事最初から期待してない。先輩の事は、もう諦めるから」

先輩との細かい事情までは、さすがにハル君にも話す勇気がない。
脅迫までして先輩に近付いたなんて知ったら、きっと軽蔑されてしまうだろう。

ハル君は私の大切な家族だ。
もしハル君に見放されてしまったら、私は生きて行けない。
まるで寄生虫のように、私はハル君に頼りっぱなしだ。
何年も前から、ずっと。
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