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intimidation love
第3章 吉野と一葉
掴まれた腕が引き寄せられるのはあっという間だった。
先輩の顔がすぐ目の前に迫り、私は咄嗟に顔を伏せた。

「嫌っ…!」

思い切り先輩の体を突き飛ばし、距離を取ろうと慌てて立ち上がる。
体勢を崩した先輩は地面に両手を付いたまま呆気に取られた顔で私を見上げていたが、やがて罰が悪そうに目を伏せた。

あと少し反応が遅れていたら、確実に私は先輩にキスされていた。
先輩が手が早い事はわかっている。
それでも一緒に昼休みを過ごすようになってからは、私に対してはそういう類いの事を一切して来なかったのに。
だから、今以上の関係を望んでいなかった私は安心しきっていた。
なのにどうして…今になって先輩はこんな事を。

「…そこまで拒否られると、さすがに俺も傷付くんだけど」

嘘だ。
どうせ先輩は、私をからかっただけに過ぎないのだから。

「…傷付いたのは、プライドだけじゃないですか」

先輩が再び、私を見上げる。

「何それ。どういう意味」

刺すような先輩の目付きに、私はすぐに自分が言った事を後悔した。

「…私は、今みたいな事はして欲しくないだけです」

「自分からはあんなに積極的に触れて来た癖に、何で俺からは駄目なわけ?正直、意味わかんないんだけど」

「そうやって…好きでもないのに簡単に触れようとする先輩にはわかりません」

「マジ意味わかんないし…それ、答えになってないから」

もっと上手くやるつもりだった。
出来るだけ波風を立てずに、先輩の元から去ろうと決めていた。
先輩だって、そろそろ飽き始めていたに違いない。
だから、先輩はあんな事をしたのかもしれない。
でも私は、結局それを受け入れられない。

たとえ終わりがどんな形であれ、どっちみち私は先輩と居られない。
先の見えない未来になんて、縋り付きたくなかった。

「…私、好きな人が居ます。だから、その人以外には触れられたくありません…それが理由です」

こんな嘘をつく筈じゃなかった。
だけど、他に理由なんて思い付かない。
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