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intimidation love
第4章 膠着
先輩は私の両腕を片手で押さえ付けたまま、側に置いてあったネクタイで器用に縛り上げて行く。
きっと先輩にとっては、私の抵抗など赤子の手を捻るようものなのだろう。
頭上で拘束された両腕を解こうと無様に藻掻く私を、先輩は満足気に見下ろした。

「覚えてる?前にヨシノちゃんが、今みたいに俺の腕を縛った時の事」

言われて思い出す。
先輩の弱味を握ったつもりで優位に立ったと勘違いしていた、あの時の愚かな自分を。

「正直捩じ伏せてやろうかと思ったけど、最後まで我慢したんだよ?あんな緩い縛り方じゃ、すぐに解けるのわかってたのに」

「………」

「あれ、結構屈辱的だったんだよね。主導権握られんのって正直好きじゃないし、俺かなりムカついたんだよあの時…だから、いつか同じ事してやろうって思ってた」

この場を切り抜けるには、どうしたらいいのだろう。
どんなに考えを巡らせようとしても、本格的に恐怖に支配され始めた脳内は上手く働こうとはしない。

「あの時と今、同じだね。ただ、俺はヨシノちゃんみたいに中途半端な事はしたくないから解けないようにちゃんと縛ったから」

私の中を占めているのは恐怖心が大半だったが、僅かな期待もまだ残っていた。
わざと酷い事ばかりを口にして、面白半分に私をからかっているだけなのかもしれない。
ほんの少し憂さ晴らしをしたくて、わざと私を怖がらせようとしているのかもしれない。
はっきり言って笑えない冗談ではあるけれど、先輩はそこまで酷い人ではない。

そうやって私が必死に縋り付いていた小さな期待は、先輩が制服に触れた事で打ち砕かれ始めた。

「…やめて、下さい」

先輩は制止の声を無視し、胸元を飾っていたリボンを外した。
ぷつりと、首回りを覆っていた第一ボタンの外れる音が聞こえた。
露になった首筋に触れられ、びくりと肩が跳ねそうになる。
先輩の指先が触れた箇所が、やけに熱い。

「…やっぱり、ヨシノちゃんの肌は冷たいね」

昔から体温は低い方だった。
だから、余計に先輩の指先が熱く感じるのかもしれない。

「ちゃんと、あったかくしてあげるから」

耳元に当たる先輩の息が妙に艶かしく感じてしまい、私は咄嗟に顔を背けた。
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