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君と甘い鳥籠で
第1章 1
 結婚出来ない限り、君は僕と一緒に居る事になる。
 成長が止まったのは流行り病のせいだけじゃない。:君が|僕のグレーテルで居たいと願ったんだろう?

 そうと:気付いた|時、ハンスは言葉で表せないほどの愉悦を感じ、歓喜した。
 人目を避け家に閉じこもる様になったグレーテに、ハンスはそれが成長が止まったのを悩んでの事だと気付くどころか、逆に自らの妄想に確信を強めてしまっていた。そして今日、熱い息を吐いたグレーテが:甘えて来た|のを機に、監禁するに至ったのだ。

 もう、グレーテは僕から離れる事はない……

 湧き上がる黒い悦び。
 仕事を終え、森を抜けるハンスの足取りは徐々に軽くなり、気付けば駆け足の様になっていた。

 早く、早くグレーテを抱きしめたい。
 ねぇ、グレーテル、君も僕を待ってくれているだろう?

「ただいま」
 家の扉を開けた瞬間、ハンスの頭から血の気が引いた。
 何時もは火が灯っている暖炉もランプも暗く沈み、静まり返った家の中からは何の音も聞こえてこない。浮かれていた気持ちは一瞬にして霧散していた。
「グレーテル?居ないの?」
 恐る恐る呼び掛けても何の返しもない。ハンスはドクドクと嫌な音を立てる心臓を吐いてしまいそうだった。細く優美な鎖はそれ程丈夫ではない。断とう思えば少女の力でも十分に断てる強さしか備えていなかった。
「グレーテ!」
 荷物を放り出し、家の中へと駆け込んで真っ先にグレーテの部屋の扉を開いた。そこは朝起こしに行った時のまま、彼女の姿どころか部屋に入った形跡もない。
「グレーテ!グレーテ!!」
 喉が引き裂けそうな程その名を呼びながら順に廊下に並ぶ扉を開け放つ。

 ごめん、ごめん!
 悪かった。
 枷の事なら、鎖の事なら謝るから!
 頼むからいなくならないで!
 僕から離れて行かないで!!

 何処にもグレーテの姿は見付からず、残すは最奥のハンスの部屋一つ。取手を強く握り締め、ハンスは祈る気持ちで重い扉を押し開いた。
 薄暗い部屋の中、床を這う細い鎖が鈍く輝く。慌てて辿ったその先はベッドの中へと続いていて。
「グレーテ!!」
 ベッドまで駆け寄り、丸い盛り上がりを内包した布団を勢いよく剥ぎ取ろうとした。その手が、止まる。

 身代わりを置いてあるだけかも知れない……
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