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君と甘い鳥籠で
第1章 1
 当然だと言わんばかりの返事にグレーテは口を閉ざす。確かにここはハンスのベッドで、今朝自分はここに繋がれたのだ……
「帰ったら眠ってたから驚いたよ」
 腕を解いたハンスがゆっくりと上体を起こす。
「具合、悪いの?」
 心配そうに覗き込んで来る、その近さにドキッとしてグレーテは慌てて首を左右に振った。
「大丈夫。少し頭が痛かったんだけど、寝たらすっきりしたから」
 まさか結婚出来ず一人残される事を怖がって泣いていたなんて話せない。言えば、きっとハンスは最後までグレーテの傍から離れないと約束してくれるに違いない。それを拠り所に自分の気持ちを落ち着かせようとしたのは事実で、グレーテは 本気でそれを望んでいるけれど……それ以上に、父亡き後ずっと守ってくれている:ハンスの幸せ|を願ってもいて。この先成人を迎えてまでも兄を縛り付ける様な事はしたくなかった。
 ハンスはじっとグレーテを見詰め、それから小さく首を傾げた。
「無理しちゃダメだよ」
「うん、ありがとう」
 心配を掛けてしまった事に居たたまれなくなったグレーテはハンスから視線を反らし、ふと自分のミスに気が付いた。
「大変、ハンス!私、ごはんの支度してないわ。今、何時?」
 慌てて起き上がろうとしたグレーテをハンスが引き止める。
「大丈夫。僕が作ってあるから」
 優しい言葉と同時、今度は正面から抱き締められてグレーテの心臓がまた早回りをし始めた。
「に、兄さんっ!」
 ぎゅっと目を閉ざしたグレーテがハンスを呼ぶ。少し震えたその声にハンスはもっと深く抱き寄せたい衝動に駆られ、強く拳を握ってそれを抑え込んだ。
「僕はもう食べたんだけど……グレーテルは食べられそう?」
「……う、うん」
 恐る恐る目を開き、見上げてくるグレーテが可愛くて堪らない。でも、
「温めて来てあげるね」
 そう言ってハンスはグレーテから身体を離した。これ以上抱き締めていると今度は止められる自信がない。
 ハンスはベッドから降りるとグレーテの額に軽く口付けて部屋を出た。閉めた扉に寄り掛かり、左手で顔を覆う。頭に浮かぶのはグレーテが目覚める前の一方的な自分の行為で。

 気付かれてない、よな……

 グレーテの態度に変わりはなかったか、さっきまでのやり取りをハンスは一人思い返していた。
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