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あおい風 あかい風
第8章 髪飾り
 「なんにもないのね」
 カーテンや家具は高価なもののようだったが、機能的で殺風景な部屋だった。本が沢山ある。その中に 参考書と問題集が何冊か あった。大輝が残したものだろう。
 
 装飾品がないなかに 写真立てがひとつ。
 先ほどのステーキハウスで ふたりが写っている。スーツ姿で眼鏡をかけた陽輝は いつもの穏やかな笑顔。大輝は くつろいで少し顎をあげている。
 「合格祝いだというと お店の人が撮ってくれたんだ」
 また 涙。
 いつ この悲しみに慣れるのだろう。
 「ゆうちゃん なかないで」
 陽輝は 結月の髪を撫でてやった。
 「はるにぃ どうすればいいの?どうやってここから抜け出せばいいの?いつ抜け出せるの?」
 「いつか」
 「時間がたつと悲しみも形を変えるから」
 「ほら。あの娘。大輝の恋人だって いつかは誰かとまた恋をして 誰かと結婚するんだよ。
 時間、って そういうものだ」

 小さな娘だった。ずいぶん泣いていたな。
 大輝に恋人がいたなんて 驚きだったけど うれしかった。悲しんでくれる人がいる人生を送ってくれたことがうれしかった。

 大輝の残したものを片付けているときに 問題集に挟まれている写真を見つけた。しおり代わりにしていたのか 縁が柔らかくなっ て 使い込まれたような体だった。他の参考書からも二枚でてきた。
 これらの写真を見ながら 頑張ろうとしている大輝の真面目くさった顔が思い浮かんだ。
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