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混浴露天風呂・痴漢ワニに囲まれて
第4章 邂逅
櫻井壮介が微笑みながら、

「下の宿に今晩、泊まるのですが、もしかしたら、お姉さんもですか?」

と、訊いた。お姉さん?茉莉子は微笑んだ。

「オバサンよ。多分、貴方たちのお母さんと同年代よ」

そう答えると、

「そうかもしれないけど、そんな風に見えない」

と、櫻井壮介が笑った。

「そう?大学生なのに、あの温泉宿に泊まるの?」

今度は茉莉子が訊いた。

「大学生が温泉宿に泊まったらおかしいですか?」

「おかしいとは言わないけど、不思議って思っただけ」

「温泉に浸かって、美味しい和食をいただいて、ゆっくり過ごしたいって年齢に関係ないと思いますよ」

「そうですよ。露天風呂から見える景色も綺麗だし、時間がゆっくり流れる感じ、好きなんです」

「ホテルと違って、宿泊者同士、一期一会で交流できるのもいいなって」

と、櫻井壮介に続いて2人も話を合わせた。

「だとしたら、残念ね。あの宿に今晩、泊まるのは私だから。空いている一部屋に誰か泊まるのなら知らないけど」

と、茉莉子が微笑みながら、櫻井壮介の最初の問いに答えた。

「全然、残念なことなんてないですよ。正直に言うと、あなたが、この宿に泊まるって知ってから予約したんです」

「ストーカーみたいなことして悪いとは思っています。でも、親しくなりたかったから」

「そう。魅かれてしまって」

自分を追いかけてきたのだろうということは茉莉子にもわかっていたが、まさか、こんな風に正直に話すとは想定外だった茉莉子。しかも、親しくなりたいとか、魅かれてしまったとか、親子ほど歳が違う大学生に言われるなんて、驚きしかなかった。

そもそも、なぜ、自分を追いかけて来たのかすらわかっていなかった茉莉子。

茉莉子の自己評価は、45歳のオバサンだった。当然、男子大学生に親しくなりたいとか、魅かれてしまうとか言われる存在だという認識はなかった。

「揶揄わないで」

茉莉子は、そう言って笑った。でも、決して安い宿ではないし、状況からして、自分を追いかけてきたことは疑いようがなかった。笑いながら、心の中では戸惑いしかなかった。
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